多摩丘陵の起伏に富んだ住宅街では、造成された敷地ごとの日当たりや通気条件によって、床下の湿気環境に差が出やすい傾向があります。
今回施工に入ったのは、築29年を迎えた木造住宅の現場です。
床下の点検口から進入して確認したところ、基礎は布基礎で、土間コンクリートは打設されていない土の状態でした。
基礎の立ち上がりコンクリート自体に大きな崩壊はないものの、基礎に設けられた「通風口(床下換気口)」のまわりや、基礎表面の経年劣化が確認されました。
開口部である通風口は、床下の通気性を確保するために欠かせない部材ですが、コンクリートの壁体としては断面が途切れている場所です。
地震の揺れや建物の重みによる応力が集まりやすいため、築年数が経った住宅ではここからひび割れが走るケースが少なくありません。
今回はこの通風口周辺の耐力を補うため、アラミド繊維シートを用いた補強工事と、コンクリートの中性化抑止工事を行いました。
床下の現場で実際にどのような手順を踏んで施工を進めたのか、写真とともに解説します。
- 築29年の布基礎において、構造的な弱点となりやすい床下通風口周辺をアラミド繊維シートで補強
- 通風口の左右や立ち上がり壁面に、プライマー処理・樹脂塗布・シート圧着・上塗りを実施
- コンクリート表面には浸透性の中性化抑止工事をし、躯体を回復
- 室内を解体せず、床下空間のみの手作業でピンポイントに補強を完結
多摩市の丘陵地と築29年の布基礎に見られる特徴
多摩市周辺は斜面地を切り拓いた造成地が多く、基礎の一部が土留めを兼ねていたり、地面からの湿気が床下に滞留しやすかったりする立地がよく見られます。
築29年が経過したこちらの住宅では、当時の一般的な工法である布基礎が採用されていました。
平成初期から中盤の住宅では、基礎の立ち上がりに長方形の開口を開けて金属製の格子をはめ込む換気口が広く使われていました。
現在主流の基礎パッキン工法とは異なり、コンクリートに直接穴を開けている構造です。
開口部の四隅は、地震時や建物の重みの影響を受けやすい形状をしています。
点検時には、開口部の角から斜め方向にクラックが伸びていないか、あるいは周囲のコンクリート表面に中性化やエフロレッセンス(白華現象)や浮きが生じていないかを重点的に確認しました。
今回は幸いにも構造を揺るがすような大きなクラックはありませんでしたが、築年数を考えると、開口部周辺の耐力を事前に補い、コンクリートの中性化の進行を抑えておく処置が適していると判断しました。
なぜ通風口まわりにアラミド繊維シート施工をしたのか
基礎の補強には、基礎の外側や内側にコンクリートを打ち増す方法などがあります。
しかし、すでに完成している住宅の床下では、作業スペースや搬入口が限られます。
そこで選んだのが、アラミド繊維シートによる補強です。
アラミド繊維は、高い引張強度を持ちながら非常に軽量でしなやかな性質があります。
エポキシ樹脂を含浸させてコンクリート表面に密着させることで、鉄筋を外側から追加したような補強効果を発揮します。
厚みもわずか数ミリ程度に収まるため、床下の狭い空間でも配管や土台を傷めずに施工できるのが特徴です。
特に通風口のような開口部では、開口の左右にシートを縦方向に貼り、さらに壁面全体へ横方向にシートを流して一体化させることで、開口部にかかる負荷を周囲の壁面へ分散させる狙いがあります。
通風口の開口部は、基礎の中で一番影響を受けやすいポイントです。
開口の左右を縦に押さえつつ、横方向のシートと交差させるように貼ることで、揺れが加わったときの角からのひび割れを抑制できます。
施工工程:通風口周辺のアラミド繊維シート補強
床下は高さが40〜50cm程度しかなく、ほふく前進での移動となります。
土台や大引、給排水管が通る中、施工にミスがないよう、丁寧な手作業を重ねました。

まずは基礎コンクリート表面に付着した土埃、クモの巣、レイタンス(コンクリート表面の脆い微粒子層)などを除去します。
この作業をしないと将来の剥がれる可能性があるため、手作業で表面を清掃します。
下地がきれいになった段階で、基礎全体に浸透性の中性化抑止工事をします。
コンクリート内部の細孔に薬剤を浸透させ、コンクリートのアルカリ性を回復・維持させる工程です。
アラミド繊維シートを貼る箇所に、下処理剤であるプライマーを塗布します。
コンクリートの吸い込みを均一にし、次の中塗り樹脂との接着強度を高めるための工程です。
ローラーで全体に塗り広げ、通風口の枠まわりなどの入り組んだ角も塗り残しがないように仕上げます。

プライマーが適度に乾燥したところで、保護・補強用のエポキシ樹脂を厚みを均一に塗布します。
樹脂が乾く前に、寸法に合わせてあらかじめ裁断しておいたアラミド繊維シートを貼り付けます。
今回は通風口の左右の狭い立ち上がり部分に10cm幅のシートを縦に配し、連続する壁面にはシートを横方向にしました。
シート内部に気泡が残ると強度が落ちるため、中央から外側へ向けて空気を押し出します。

繊維が樹脂で完全に覆われた状態を確認したあと、表面保護のため上塗り樹脂を塗り重ねます。
アラミド繊維を樹脂の層の中に完全に閉じ込めることで、外気や湿気を遮断し、強固な層を形成します。

床下の現場では、通風口の角部分にシートを沿わせる際、シートが浮き上がりやすい点に注意を払いました。
繊維の硬さに負けて角が浮いてしまわないよう、指先とヘラで樹脂をなじませながら、コンクリートの凹凸にぴったりと貼り付けます。
基礎コンクリートの中性化抑止を組み合わせた理由
今回の工事では、シートを貼る補強箇所だけでなく、基礎の立ち上がり全体に対して中性化抑止工事を行いました。
コンクリートは本来強いアルカリ性を持っていますが、空気中の二酸化炭素や湿気に長年さらされることで、表面から徐々に中性化が進みます。
築29年という月日は、中性化が内部の鉄筋まで達し始めるひとつの目安です。
鉄筋まで中性化が進むと、内部の鉄筋を保護していたものが失われ、サビが発生します。
サビた鉄筋が膨張すると、コンクリートを内側から押し出して割ってしまう「爆裂現象」を引き起こします。
今回の現場ではまだ鉄筋の露出や爆裂は見られなかったため、この段階でアルカリ性を補う浸透剤を塗布しておくことで、基礎躯体の劣化スピードを抑える効果があります。
構造的な強度をアラミド繊維で補い、素材としての寿命を中性化抑止工事で延ばすという組み合わせです。

よくある質問(FAQ)
まとめ:通風口という弱点を的確にカバーする補強の判断
今回の多摩市の住宅では、築29年の布基礎に見られる条件をふまえ、以下の施工を行いました。
- 通風口(開口部)の応力集中を抑えるため、10cm幅のアラミド繊維シートを通風口の左右には縦で、壁面には横で交差して、専用プライマーと補強樹脂を用いた確実な補強を実施
- 基礎全体の長寿命化を図るため、浸透性の中性化抑止工事を基礎全体に施工
基礎の劣化に対しては、必ずしも基礎全体を壊して作り直すような大規模工事ばかりが必要なわけではありません。
通風口まわりのように、構造上の弱点となっている箇所を把握し、適切な工法でピンポイントに補強することで、建物への負担を抑えながら安全性を高められます。
基礎の状態や床下の環境は、敷地の高低差や築年数によって一軒ごとに異なります。
もし他社から「基礎のやり直しが必要」などと指摘されて判断に迷っている場合は、施工内容を見極めるためにも、別の専門的な視点から現状を客観的に確認してみることをおすすめします。
